茶道向けの着物とNGの着物
茶道の着物の選び方には、一般の着物とは異なる暗黙のルールがあります。
ここでは、実際の茶道向けの着物とNGの着物について解説していきます。
茶道と一般の着物の違い
茶道で着る着物も一般の着物も、形は同じです。
では、何が違うのでしょうか?
それを一口で表すのは難しく、あえて言うならば、「品の良さ」や「凛とした佇まい」、「格の高さ」とでもいう極めて印象的なものです。
茶道は禅の思想と密接につながり、また一期一会の精神、おもてなしの精神など、茶道以外の和のお稽古事にも共通に見られる高い精神性が、そこにはあります。
つまり、着物一つとっても、自己表現のおしゃれの意味ではなく、茶道の世界の精神性や文化性に融合できる色柄の着物を選ぶことが肝心です。
着物を着た自分自身が目立つのではなく、茶室のしつらえ、たとえば床に飾られた掛軸や花入れ、また点前に使う茶碗など道具類があくまでも主役であるということを充分にわきまえる気持ちが必要です。
またそのようなしつらえでお客様を迎える亭主の気持ちを尊重し感謝して、控えめな色柄や、その場にしっくり馴染むような雰囲気の着物を選ぶことが、お茶をたしなむ人には必要な素養となります。
これだけあれば安心の着物
茶道歴の長い方々は、季節に合わせた着物や帯を沢山お持ちのことと思います。
ここでは、これから茶道を始めるにあたって着物を揃えようと思っている方など、茶道初心者の方のために、これだけ持っていれば安心という着物を説明します。
まずは、色無地の一つ紋。これは、女性の準礼装にあたるもので、留袖、訪問着に準じる格の高い着物として認められます。
紋を入れなければ、普段使いの着物にもなりますが、一つ紋を入れておけば、急に正式なお茶会に招かれた場合などにあわてなくても済みますし、茶道以外にも、帯を華やかなものにすれば、結婚式に着用しても恥ずかしくないものです。
色無地に三つ紋を入れた場合は、紋のない訪問着より格が高くなりますので、逆に着用する場を選んでしまうことになります。茶道で着用する場合は、一つ紋で充分でしょう。
その他に、普段のお稽古に着用する着物として、小紋や紬、ウールの着物などを、各シーズン用に1枚持っていれば、重宝します。
お稽古の時は水屋仕事などで着物を汚してしまうことも多いので、自宅の洗濯機でも手軽に洗える化繊の着物も、最近は絹物の手触りと同じようなよいものが売られていますので、そちらもお薦めです。
着物はやはり洋服より高価なものですから、一度に沢山誂えることはなかなか難しいものです。また、茶道や着物初心者の方は、最初のうちはどんな色柄が自分に似合うのかわからなかったり、TPOに合ったものを選びそこなったりと、失敗することもあります。
最初のうちは、お教室の先生や先輩方がどんな着物を着ているかよく拝見し、また素直にお伺いする等して勉強していくことが肝心です。
そのうちに、茶道に相応しい着物を選ぶ目が養われますので、色無地や小紋だけでなく、訪問着や付け下げなど、少しずつ手持ちの着物を揃えていくことをお薦めします。
また、「着物1枚に帯3本」というように、同じ着物でも合わせる帯で全く雰囲気が変わりますので、着物と帯のコーディネート力を身に着け、より多くの組み合わせを楽しむことにもトライしてください。
茶道にはNGの着物
茶道で着用する着物のルールやマナーも、基本的には一般の着物のそれと同じです。
着用するシーズンで、袷、単衣、夏の薄物を衣替えするのはもちろん、その他にも、たとえば、季節に合わない色柄のものは無粋であるという意味でNGとされています。
桜の季節に秋の花やススキの柄や刺繍の入ったものは着ません。
また、季節の先取りは好まれますが、過ぎた季節の意匠が入った着物はやはりNGです。
たとえば、梅の咲き終わった3月に、梅の柄の帯を締めるといったことです。
また、茶道の場合は、棗や茶碗など茶道具の描かれた着物はやはり無粋であり、着用NGとされています。
その他、着物以外の部分で、絶対にNGなのは、着物の衿から見える半襟に色や柄、刺繍の入ったものと、足袋に色柄のあるものです。茶道の場合は、半襟と足袋は清潔な白いものと決められています。
茶道で着るべき着物の選び方
着物初心者の方は、まずは着物の専門家に相談しながら着物を誂えることをお薦めしますが、相談するにも全く知識がないのは困りもの。ここでは、茶道に相応しい着物について説明します。
色無地の次に選ぶ着物
まずは色無地の一つ紋をお薦めしましたが、茶道や着物初心者の方がその次に選ぶ着物として、江戸小紋や飛び柄といって無地場の多い染の小紋をお薦めします。
小紋は、その色柄や合わせる帯の格によってお稽古や普段の街着、またカジュアルなお茶会にも着用できる大変便利な着物です。
特に江戸小紋は、色無地同様、紋を入れると準礼装にもなり、正式な茶会にも着られる小紋の中でも格の高いもので、お茶をたしなむ方には一番お薦めの着物です。
また、価格に関しても、豪華な訪問着や付け下げなどに比べ、比較的購入しやすい金額のものが多いのも魅力の一つです。
小紋について簡単に説明します。
柄が非常に細かいため、遠目には無地に見えるほど。
格が高い着物で、一つ紋を入れると色無地と同様、準礼装となります。
江戸小紋の染柄には様々ありますが、中でも、江戸小紋三役と呼ばれる代表的なものを選ぶのがお薦めです。
江戸小紋三役とは、「鮫小紋」、「行儀小紋」、「角通し小紋」の三種。
「鮫小紋」は、模様が鮫の肌のように見えるためこう呼ばれ、 特に細かい柄の物は極鮫小紋と呼ばれ、江戸小紋の代表格です。
「角通し」は。細かな正方形を規則的に並べた模様。
「行儀」は、小さい霰を斜めに並べた模様。
全て、ほとんど色無地に見える大変細かい型染の着物です。
その他、茶道に適した小紋を簡単に紹介します。
紅型・・・沖縄地方の独特な染で、深い色合いと柄が特徴。
更紗・・・南方系のエキゾチックな模様。茶道具の裂地にも使用されている伝統的な柄。
絞り・・・細かく糸で絞って染められたもので、大変手の込んだもの。
縞柄・・・粋な雰囲気もありますが、深い色合いやはんなりとした色合いを選べば、上品。
江戸小紋同様、茶会などに着用できる小紋は、染めの着物だけです。
紬など織りの着物は着用しません。
大島紬や結城紬、牛久紬など、日本には各地で様々な紬が織られ、大変手の込んだ高級品ですが、どんなに高級でも織りの着物はおしゃれ着であって、正式な場には着用できません。
最近では、無地の紬地に小紋を染めた着物も、気軽なお茶会で見られますが、初心者の方はまずは染めのものから選ぶのが無難です。
お稽古用の着物選び
茶道といっても、先生であったり特別な会に所属していない限り、そう頻繁にお茶会に招かれる機会はないと思います。
着物を着る機会は、やはり毎週のお稽古の時がほとんどでしょう。
お稽古の時には、お茶会に着るような格の高いものや高価なものではなく、小紋や紬などカジュアルな素材や色柄の着物に、名古屋帯や半幅帯を合わせる等して、自由に着物を選んで楽しむことができます。
夏の季節は、木綿の着物を涼しげに着ることもよいでしょう。
若い方にとっては、お洋服感覚の色柄も取り入れるなどして、自由に着物のおしゃれができる楽しい機会ですね。
もちろん、あくまでも品よく茶道らしさは忘れずに!
茶道の着物の着付けポイント
茶道で着る着物は、粋で派手な雰囲気にならないように着付けをすることが大事です。
あくまでも品のよい凛とした雰囲気に着付けることが肝心。
たとえば、襟元を開けすぎない、帯をあまり高く締めない、帯締めに宝石などのついた帯留を用いない、帯のお太鼓部分も粋な結び方をしない・・・などです。
そして、お点前やお運びをする際の立居の動きで、着物が着崩れないようにきっちりと着付ける事、また、前身頃が開いてしまわないように、裾すぼまりにして前を合わせる等、茶人ならではの着物の着方もあります。
着物の着方には、着る人のセンスだけでなく、茶道に対する心の姿勢や性分がどうしても現れるものです。お点前の上達を目指すことと同じように、普段から凛とした気持ちと姿勢を保つ努力が、きれいに着物を着られるようになる秘訣でしょう。
茶会に呼ばれた際の着物の選び方
着物にも洋服と同じように、TPOがあります。招かれた茶会の種類や趣旨によって、正しく着物を選ぶポイントを説明します。
初釜に着る着物
茶道をたしなむ茶人にお正月は二度やってきます。
一つは元旦から始まる一般のお正月。そして、二つ目は初釜と呼ばれるその年初めて行われる茶道教室などの茶会です。
この日は特別、華やいだ気分で先生と弟子たちがお茶を楽しみます。
年に一回、先生のお点前が見られる貴重な機会でもあり、茶懐石の料理やお屠蘇をいただきながら親睦を深め、また今年もお稽古ご一緒によろしくお願いしますという礼をつくす場でもあります。
そのような日には、普段より少し華やかな着物を着たいものです。いつもは控えめな小紋や色無地、紬などのお稽古着を着ていても、この日は訪問着や付け下げで着物のおしゃれを楽しみましょう。
色や柄もお正月に相応しい松竹梅や宝尽くしのような縁起のよいものを選んだり、花鳥模様の刺繍や絞りなども気分が華やいでよいものです。
正式なお茶会に着る着物
正式なお茶会、それはたとえば、先生や目上の方からお招きを受け、きちんとお礼のお品や会費を包んでお持ちするお茶会です。
大抵は、お茶とお菓子だけでなく、点心といって軽い食事が出されたり、茶懐石料理のフルコースが振舞われるような、お茶会というよりもお茶事と呼ばれる形式の場合もあります。
こういうお茶会やお茶事に招かれた場合は、やはり招かれた方もきちんと礼儀を尽くして、着物もある程度、格の高いものを着用すべきでしょう。
また、お茶会やお茶時にはその日のテーマがあることもあります。たとえば、先生の古希のお祝い、秋の炉開きの茶事、花見の茶会、追悼の茶会など。
その日のテーマがあらかじめわかっている場合は、その点をよく考えてテーマに相応しい着物を選ぶことが必要になります。
お祝い事の茶会には、華やいだ色柄の着物や紋の入った格の高い色無地や江戸小紋が相応しいでしょう。
追悼の茶会には、地味な色の帯や帯締めを締めることが礼に適っています。
また、桜の花見の茶会に桜の柄の着物は、無粋ですね。
カジュアルなお茶会に着る着物
たとえば、茶道のお教室仲間で開く内々の茶会や、神社やお寺で開催される大寄せの茶会と呼ばれる大人数で参加する茶会など、ごく気軽な茶会に着ていく着物は、より自由に選んでも差し支えないでしょう。
もちろん、訪問着や紋入りの色無地など格の高い着物でもよいですし、少しカジュアルな色柄の小紋、また通常の茶会では着用できない紬の着物でも許されます。
ただし、どんなに暑い夏の日でも、木綿や浴衣のような、洋服で言えばデニムの普段着で参加することは、特にそれが相応しいテーマのお茶会でない限り、あまりお薦めできません。
やはり亭主やお茶会に招かれたことに感謝の気持ちを表す着物の装いを心がけたいものです。
まとめ
着物の世界も、茶道の世界と同じように、歴史があり大変奥の深い世界です。
日本が誇れる文化の一つといってもよいでしょう。
そして、茶道とも深い繋がりのある世界。今や着物を普段から着ているのは、茶道や日本舞踊を習っている人がそのほとんどではないでしょうか。
お稽古の時は、もちろんお洋服でも大丈夫ですが、正式なお茶会に招かれた時はもちろん、ちょっとしたお茶会に参加する時でも、是非、着物を着て出かけたいものですね。
お稽古の時も、着物でお点前したり茶室の中を歩くだけでも、足さばきや手元の動きが繊細になり美しい所作が身に付きますので、できたらやはり着物でお稽古することをお薦めします。